「あぁ……妬ましい。地上の光が妬ましい。
巡る風が妬ましい……。
地底の暗さが妬ましい、生ぬるい空気も妬ましい」
旧地獄の入り口を見守る番人である水橋パルスィは、今日もあらゆるものを妬む。
橋姫はしひめであるパルスィは、地底を訪れる者を見守るのがその役割だ。
旧地獄は弱肉強食の厳しい世界。不用意に訪れる者には、帰るように促す優しさを見せることも多い。
しかし同時に、他人の嫉妬心を操り、またあらゆるものに嫉妬する妖怪でもある。
そう聞くと非常に不健全にも思えるが、
パルスィにとって、嫉妬心は自分の力を高めるために必要なのだ。
「こんなにも妬ましい日は、
勇儀やヤマメとお酒が飲みたくなるの。
勇儀はいつもカラッとした性格で妬ましいし、
ヤマメは気さくで明るいところが妬ましいもの。
ふふ……ほんと、妬ましいわ」
嫉妬せずにはいられない、嫉妬することがその存在の根幹となっているパルスィにとって、
遠慮せずに嫉妬できる相手こそ、得難い友人なのかもしれない。
地底に住んで久しいパルスィは、光に満ちた地上からの来訪者を妬んだこともある。
けれど、地上の光も、地底の暗さも、パルスィにとっては等しく嫉妬の対象だ。
逆に言えば、パルスィはどんなところにいようと自分らしくあれるということかもしれない。
「そういえば、もうすぐ石桜の降る季節が来るわ。
今年もさぞかし美しくて、妬ましいことでしょう。
くす……明日もきっと、
妬ましい日になってくれるはず」