「ふふっ、今年も綺麗な子がたくさん流れてくるわ
……これは集めがいがあって楽しそう」
今日は年に一度の流し雛。里の人々がさまざまな願いや厄を乗せた祓はらい人形を玄武の沢に流す。
厄神様である雛にとっては、厄を一気に集めることのできる一大イベント。自然と熱が入る。
「たくさんの人々の、いろんな厄を感じる。
やっぱり、誰かが引き受けないといけないんだわ」
機嫌を良くした雛は心の底から楽しそうに、くるくると舞い踊る。極上の厄が彼女を包み込んでいた。
「いやぁ、ずいぶん楽しそうにしているねえ。
私も祓い人形を作って売ったお金で大儲け。
いいことだ」
そんな彼女の姿を遠巻きに見つめていたのは、人形を作って人々に売りさばいたにとり。
にとりの作った人形は高性能(?)らしく、
普通の人形よりも効率良く厄を集めることができるようだ。
「ありがとう。とっても助かっているわ。
こんなに純粋な厄を集められるなんて最高よ」
踊りながらにとりに向かって声をかける雛。普段と違い、ずいぶん調子の良い声だった。
「仕事熱心だねえ。里の人間たちは本当に
厄が祓えるなんて思ってないんだろうけど……」
「人間たちがどう思っていても構わないわ。
私は人間たちの厄を
引き受けるのが好きなんだから」
厄神様としての在り方以上に、人間たちに対する慈悲の心を持つ雛にとって厄祓いは大切なこと。
誰に称賛されることがなくとも、愛されることがなくとも、ひたすらに人間の役に立とうとしている。
「私には理解できないなあ。
やっぱり見返りがなくちゃ、
やる気なんて出ないしさ」
雛に聞こえないよう、ポツリと呟くにとり。それを知ってか知らずか雛は一心不乱に踊り続ける。
やがて厄で満たされていた玄武の沢は、雛の力によってどんどん清らかな姿へと変貌を遂げていく。
「今年もいい厄祓いができたわ。
今から来年が楽しみ……」