「はぁ。とても気持ち良かったわ。
たくさんの厄を集められて、私はとっても幸せよ」  
一通り厄を集め終えたは、いつもより調子の良さそうな顔を浮かべてニッコリと笑ってみせる。  
「私も人形を売っていっぱい稼げたから満足だよ。 でもこれ、別に毎日やってもいいんじゃない?」  
雛の集めた厄の影響を受けないよう、恐る恐る距離を取りつつ考えを述べるにとり。 どうやらにとりは雛の厄集めを本格的な商売として、年に一度ではなく継続的に続けたいらしい。
「ダメよ。 厄っていうのは安売りするものじゃないの。
たまに厄が祓われるからこそ人は喜ぶの」   「うーん……真面目だなぁ。 厄が毎日祓われたほうが、 人間たちも喜ぶし、私の財布も潤うのに」
雛の言葉に首を傾げるにとりに対し、雛はいつになく真面目な顔を浮かべてこう語る。  
「厄がなくて毎日が幸福だとしたら、人間たちは
素直に幸福を喜べなくなるわ。それは不幸よ」   「なるほど……厄がないとそもそも ありがたみを感じなくなっちゃうのか。 それもそうかもしれない」
雛の言葉に納得した様子でにとりは頷く。元来、人間というのはわがままな生き物だ。 ありがたみを感じなくなれば、そもそも神様を敬ったりしなくなってしまう。特に厄神様なんて。 厄というのは、その名の通り扱いが厄介な代物だ。これをアテにして一稼ぎするのはなかなか難しい。   「それに、私は厄集めで
儲けるつもりなんてないわ。
厄集めは私にとって大切な行為なの」   集めた厄に身を任せながら、雛はうっとりとした表情で怪しく微笑む。そんな彼女を見て、 にとりは改めて雛の厄神様としての恐ろしさを垣間見た気がした。やっぱり厄は厄介なものだ。
「さて、後はこの集めた厄を
神々へ送らないといけないわ。
これから忙しくなるわね……!」   雛は再びくるくると舞い踊りながら、にとりの元を離れていった。それも、とびきりの笑顔で。