人間の里で寺子屋を開く、上白沢慧音。彼女の寺子屋では子供たちの元気な声が絶えない。 今年もまた、女子の健すこやかな成長を祈る年中行事――ひな祭りの季節がやってきた。   「また一年……もう一年、か。
まったく子供の成長というのは早いものだな」  
私室でひとり、男雛と女雛だけの簡素な雛飾りを並べながら、慧音は思う。 子どもは駆け足で成長していく。ずっとずっと、追い越されてばっかりだ、と。
「……妹紅は、ずっと、
こんな気持ちを抱えていたのかもしれないな」  
永い、永い……永遠とも言える時間のほとんどをひとりで生きてきた友人の顔を思い浮かべる。 ――彼女が抱える孤独に、自分は少しでも寄り添えているだろうか?   慧音は頭を振って、湧き上がりかけた雑念を振り払う。 自分が不安を感じていたら、妹紅はそれを敏感に感じ取ってしまう。 永い時をひとりで生きてきた彼女は人に焦がれ、そして同時に別れを恐れている。 それくらい妹紅は優しく、寂しがり屋で、不器用で……なにより、人間が好きなのだ。
「私がお前に寄り添える時間は、
そう永くないだろう。
だけど、その間くらいは、お前と笑顔でいたい。 私がいれば寂しくない
――お前がそう思ってくれるくらいに」  
微笑む慧音の視線の先、その手の中には、妹紅と慧音にそっくりな男雛と女雛。 ふたつだけの雛飾り。けれど、並ぶふたつの人形はどこか幸せそうに見えた。