「あら? 貴方……相当な厄をその身に
溜め込んでいるようね。見ればすぐにわかるわよ」
とある山道で、重い荷物を背負った男に声をかけた少女。
彼女は可憐な見た目に反して強大な力を持っている。
人間が生きるだけで溜めこんでしまうその厄を、代わりに引き受け禊みそぐ存在。
鍵山雛は、厄神様やくじんさまだ。
「あ、ちょっと! 待って!
違うの、あなたに厄が溜まっているから……!
それを引き受けようと……!」
禍々しい厄を感じ取り、逃げ去ろうとする男。そしてそれを追いかける雛。
「……また、逃げられてしまったわ。
どうしてわかってもらえないのかしら」
その背中は遠く離れていく。男の姿は見えなくなってしまった。
名前に神とつくものの、厄神は妖怪であり、人間にとっては恐れを抱く対象でしかない。
「でも、仕方ないわ。厄神の近くにいたら、
より大きな災いに遭うと考えるのは、当然よね」
厄神の周囲には溜まった厄が漂っており、近づいた者は何かしらの害を被ってしまう。
厄が災いとなって、その身に大きな不幸が降りかかるのだ。
「あの厄の大きさだと……近いうちに
災難に見舞われるでしょうね。
その前に、祓って引き受けてあげたかったのに」
山を駆け下りた商人の男は、不意に草履の鼻緒が千切れて転び、
運んでいた商品を粉々にしてしまった。
――厄神を見ちまった。あんなところで出会わなければ、こんな目に遭わずに済んだのによ。
だが、男は知らない。
もし、厄神と出会っていなければ、出会い頭に雛が男の厄の一部を引き受けていなければ。
その先の山道が突然崩落し、命を落としていたかもしれなかったことを。
出会うはずの不幸な運命ミスフォーチュンズホイールが回転したことを、その男は知らなかった。
「……でも、早く見つけられて、本当に良かった」
「厄神を見ると不運が降りかかる」
その不幸は厄神が先か、それとも降り積もった厄そのものが先か。
鍵山雛は、厄神様やくじんさまだ。彼女は決して、不幸にはならない。