「あら、あらあらあら。私の元に誰かが
訪ねてくるだなんて、珍しいこともあるものね」
清涼感あふれる川、木漏れ日が差し込む明るい畔ほとりで、鍵山雛は驚いたように口を開けた。
彼女の前にいるのは、美しい金髪を持つ魔法使いの少女――アリス・マーガトロイドだ。
「綺麗な人形をほうふつとさせる、その姿かたち
……あなたが鍵山雛さんね?
私はアリス、アリス・マーガトロイド。
あなたと仲良くなりたくて、
お邪魔させてもらったわ」
「仲良くなりたいなんて……ずいぶん物好きな人。
私と出会った者がどうなるのか、
知らないわけではないでしょうに」
厄神様やくじんさまに近づけば、いかなる人間や妖怪でも不幸に遭う――人里に伝わる、そんな噂。
当然、アリスもその噂については知っている。むしろ、知っている上で、あえて会いに来た。
「私が誰と会い、何をするかは私が決めるわ。
他の誰かに決められるなんて嫌だもの。
私は私の意志であなたに会いに来た。
さっきも言ったでしょう?
仲良くなりたい、って」
七色の人形遣いと、流し雛を行う厄神様やくじんさま。
人形に関わる二人が邂逅かいこうすることで、何か新しい知見があるかもしれない。
可能性としては低いだろう。だが、決してゼロではない。
「今度、人間の里で人形劇をするんだけど、
そのリハーサルをあなたに見てほしいの」
「……ふふっ。あなたって本当に変わった人。
いいわ。ちょうど、退屈していたところだから」