「お茶会にまで誘っていただいてありがとう」
「いいのよ、リハーサルを見てもらったお礼よ」  
後日、アリスの家で紅茶を嗜んでいた。 山でリハーサルを見てもらったあと、アリスがお茶会に誘ったのだ。 ひとしきり二人で話をしてから、アリスは微笑む。  
「実はね、劇の筋書きを少し変えてみたの。
また見てもらってもいいかしら?」
「えぇ、私でよければ喜んで」
いつも使っている上海人形だけでなく、様々な役を振り分けられた多種多様な人形の数々。 決して一人では扱えるはずのないそれを、彼女は表情一つ変えずに操り始める。  
「むかーしむかし、あるところに…… 不幸を集めてしまう、一人のお姫様がいました」  
ピアノを奏でるように指を動かすと、人形たちは役に従い、滑らかな演技を披露していく。 まるで人形たちに魂が宿っているかのようなその動きに、は思わず感嘆の吐息を漏らした。
「山でみたときよりもすごいわね……。
ねぇ、その魔法って、あなたが作った人形以外も
操ったりできるのかしら?」
  「あまり試したことはないけれど、 私の魔力を込めさえすれば可能だと思うわ」
「ふぅん……ずっと山で雛を流すだけの生活には
飽きてきたところだったの。
人形劇ができるようになれば、この退屈も
少しは紛らわせることができるかしら?」   「ふふっ。じゃあ、私が魔法を教えてあげる。 人形は、常に人の歩みと共にある存在。 きっと覚えられるわ。時間はかかるでしょうけど」
「その心配はいらないわ。だって、私にも、
あなたにも、年月はいくらでもあるのだから」  
魔法使いの少女がもたらした娯楽は、山奥でひとり佇たたずむ少女の心を動かすには十分すぎるものだった。  
「――劇をするなら、人形がいるわね」
きっといつか、彼女についての噂は上書きされることだろう。
「今度家に来たときに、人形を作ってあげる。 あなたに似た、可愛い人形を」  
厄神様やくじんさまに近づけば、如何いかなる人間や妖怪でも笑顔になる――そんな微笑ましい噂に。