人里では祭り以外にも小さな行事が行われている。今日はアリスが人形劇を行う日――。 夜も更け、辺りが静まる。煌めく星空の下、人里の子どもや大人が拍手を送ると、そっと幕が上がる。 アリスのステージは不思議な光に照らされ、見えない糸で操られた人形が踊りだした。   その様子を家屋の屋根の上から見下ろす影がひとつ。 彼女は、闇に蠢うごめく光の蟲むし――リグル・ナイトバグだ。   「次の演出は……うんうん。了解!」   リグルは連絡用の人形から聞こえてくるアリスの指示に従い、蟲たちの光を操る。 蟲たちは柔らかい光を放ち、ステージを淡く照らしていた。
「私と蟲たちにかかれば、
このぐらいどうということはないわ!」  
観客たちはステージで踊る人形たちに夢中。 蟲たちはあくまで人形を引き立てるために、ステージをささやかに彩る。 蟲のことにも、リグルのことにも、誰も気がつかない。 だがリグルはそれでよかった。 観客が楽しんでくれれば、それでいいと思っていた。
「さあ、フィナーレだ!
蟲たちよ、派手に演出してあげよう!」  
リグルの声に反応して、蟲たちは人形たちを鮮あざやかに照らす。 そしてフィナーレを迎えたステージ。鳴り止まない拍手。 その歓声に、リグルは人知れず、誇らしげに頭を下げた。