「あっははは! 楽しいですね、こうして飛ぶの!」  
「たのしいですよー! 春ですからねー! はーるーでーすーよー!」  
「ふふふっ。はる、ですよー!」  
大妖精はリリーホワイトにつられて、ともに春を告げる。 空を飛びながら叫ぶ二人の声は、桜の花弁とともに幻想郷の住人に届いていた。
「今日は、ありがとうございました!」  
「いいんですよー。 春はみんなで感じるものなんですからー」  
「みんなで……そう、ですよね」
リリーホワイトの言葉を噛み締めると、大妖精は少しだけ考え込む。  
「あの……わたし。本当は 大切な友達と喧嘩してたんです」
「ふんふん、そうなんですかー」  
わかっているのかいないのか、そんな大妖精をリリーホワイトは笑顔で見返す。  
「それで、もやもやしてて、その…… スッキリしたくて、一緒に飛んでみたくなって」
「ふんふん」
「……そしたら、なんだか 楽しくって。すごく、すごく! 小さなことなんて、忘れちゃうくらいに!」
「そうですよー。春ですからねー!」  
沈む夕陽を背にしながら、リリーホワイトは大きく両手を広げた。
「今は春なんですよー。 暖かな春は、みんな幸せにしてくれるんですー。 お友達も、あなたも、わたしも、 みんなに春が来てるんですよー」
歌うように語るリリーホワイトに、大妖精はぺこりと頭を下げた。  
「ふふ。今日は、本当にありがとうございました。 私のお友達にも、春をわけにいってきますね!」
「いってらっしゃーい!」  
次の日も、リリーホワイトは空を飛ぶ。  
「はーるーでーすーよー!」
暖かで幸せな春が来たぞ、と叫ぶ彼女の声につられるように、 妖精たちが春の空を飛び回った。 幻想郷の春は、いつの年も明るい妖精たちが運んでくるのだ。