「春ですよー! はーるーでーすーよー!」
幻想郷に春が訪れると、どこからか「春ですよー!」という声が聞こえてくるようになる。
その声を聞いた途端、蕾だった桜や菜の花などは待ってました、と言わんばかりに花弁を開く。
花が咲けば、次に起きることは決まっている。――そう、花見の準備だ。
人里だけでなく、妖怪の山や地底などでも花見の準備をする。もちろん、博麗神社も例外ではない。
参加者は皆、顔馴染みの面々に声をかけては、宴会の準備をいそいそと始める。
普段は妖怪や妖精たちの訪問をよしとしない巫女だが、宴会では少しだけ寛容となるのだ。
「いい匂いがしますー! これは菜の花の
天ぷらですねー? たらの芽もありますー!」
並べられた春の幸に、春の妖精、リリーホワイトは瞳を輝かせる。
博麗の巫女は、無邪気に喜ぶリリーホワイトの口に、出来立ての天ぷらを放り込んだ。
「はふっ、はふっ! 熱いですけど
……とっても美味しいですー!」
サクサクとした食感、ちょっぴり大人な苦味……そのすべてをじっくりと味わうリリーホワイト。
あまりの美味しさにリリーホワイトは両手で頬を抑えつつ、顔に大きな花を咲かせた。
そこまで喜んでもらえるなら悪くない、と巫女は春告精の口に料理を次々運んでいく。
そんな微笑ましい光景に、私にも食べさせろ! と他の参加者たちが文句を言い始めた。
順番を巡って言い合う巫女たち、それを見て盛り上がる、宴会前なのになぜか酔っている者たち。
今年も春は賑やかで、楽しく平和だ――と、リリーホワイトは嬉しそうに微笑んだ。