この幻想郷に存在する妖怪たちの中には、当然、翼を持つ者だって存在する。
氷の翼、鳥とも蟲むしともとれない翼。多種多様な翼があるが、その中でも彼女たちのは別格だ。
風よりも速い幻想ブン屋――鴉天狗の射命丸文と、地獄関所の番頭神――鶏の神である庭渡久侘歌。
黒く鮮やかな鴉の翼と、白く華やかなニワタリ神の翼。
宙を掻き分け、風を纏いて、大空を滑空する。大きく美しい、お手本のような翼を持つ二人。
黒と白のコントラストを映すその二つの影は、幻想郷をはるか上空から見下ろしていた。
「あやや。鶏のくせに空を飛べるとは……やはり
神ともなると常識から逸脱するものなのですね」
「鶏が空を飛べないなんていうのは、
みんなの勝手な思い込みにすぎません。
私たちだって本気を出せば、空を飛ぶぐらい
造作もないのです! コケー!」
「なるほど……ニワタリ神の秘密にもっと
迫ってみれば、いい記事が書けるかもしれません。
突然ですが、これから私の取材を
受けてもらってもいいでしょうか?」
「鶏の地位向上に繋がるのならば、喜んで!
答えられる範囲でなんでもお答えいたしますよ」
意気揚々と取材を受ける久侘歌の頭の上で、小さなひよこも「ピ!」と鳴いた。
記憶力の乏しい久侘歌がどれだけ文の期待に応えられるのか心配だ、とでも言わんばかりに。