風見幽香は長い時間を生きてきた、強大な力を持つ妖怪だ。
他者との関わりを嫌い、気に食わない相手は、妖怪であろうと容赦なく手にかける。
そんな恐ろしい噂が絶えないことから、彼女は長らく畏怖の対象として見られてきた。
だが元来、他者に興味のない幽香にとって、それはどうでもいいことだ。
彼女が愛しているのは、花々だけ。美しく健気に生い茂るその生き様だけに、彼女は共感する。
「妖怪である私と違って、花々は儚く脆い存在よ。
踏めば折れるし、世話を怠れば枯れてしまう。
でも、だからこそ、その儚い一生を懸命に
生きる彼らに、私は形容しがたい魅力を覚えるの」
毎日毎日、花畑を巡るだけの日々。
他人から見ればなんとも張りのない生活だが、風見幽香の毎日は花々のおかげで満ち足りていた。
「私の日々に妖怪も人間も動物も必要ない。
花さえあれば、他には何もいらないわ」
長い年月を生きてきた彼女は誰に強制されるわけでもなく、今日も自ら花畑に足を運ぶ。
儚い命を愛でるために。風見幽香は太陽の下に姿を現す。
「今日も無事に生きてくれてありがとう。
一生を終えるその日まで
美しく咲き誇っていて頂戴」
朝露に濡れた花々に向けられる幽香の表情。
それは彼女を知る妖怪も人間も見たことがない、なんとも穏やかなものだった。