長い遠出を終えた八雲藍は、久方ぶりにマヨヒガを訪れた。 風に揺れる木々のざわめき、緩やかに舞う桜の花弁とともに彼女を出迎えたのは、式神のだった。  
「おかえりなさい、藍様! ねえねえ、藍様、藍様! 今回のお土産はなんですか!?」  
「あはは、すまない。今回は少し忙しくてね。
お土産は用意できなかったんだ」
「えー。残念…… でも、お土産話ならありますよね?」  
「もちろんだとも。だがそれは、
橙がちゃんといい子にしていれば、の話だ。
たとえば……
留守番中、悪戯はしなかったね?」
「もちろんです! 藍様の式神として、ちゃんと マヨヒガを守っていました。えっへん!」  
「それは素晴らしい。橙は本当に
よくできた式神だな。私の自慢の式神だ」  
自信満々に胸を張る橙の頭を撫でながら、藍は目を細め、その表情を和らげる。  
「では、お望み通り、土産話をしてあげよう。
今回は長話になるかもしれないが……」
眠ったりするんじゃないぞ、と藍が視線で訴えるが、橙はよそ見をしていて気づかない。 やれやれ、と藍は頭を振りつつ、屋敷の奥に目を向けた。  
「天気もいいし、まずは縁側にでも
行くとしよう。橙、お茶の準備を頼めるかな?」   「りょーかいです! 確か棚のお茶菓子も余ってた はずなので、それも用意しておきますね!」  
細かい気遣いを見せる橙に、本当によくできた式神だ、と藍は再び感心するのだった。