季節は春。幻想郷には麗らかな日が差し込み、桜吹雪が舞う。   「よしっ!
なんだか今日はとっても調子がいいよ!
こんなときにはお外に出なくちゃもったいない!」   陽気な風に当てられ、猫は元気いっぱいにねぐらから外へと足を延ばす。 それは化け猫も例外ではなく、は夜が明けるなり外へ飛び出すと、全身全霊で草原を駆け回った。 その勢いは留まることを知らず、そのまま幻想郷を一周してしまうかのようだった。 橙は猫の本能を剥き出しにし、舞い落ちる桜の花びらに向かってひたすら突進する。
「やっぱり春はこうでなくっちゃ!
えへへへへへっ♪」  
化け猫といえど、猫は猫。 動くものにはしっかりと反応しつつ、藍たちには見せないような緩みきった笑顔ではしゃいでいた。   「ふふん!
夜になるまで思いっきり遊ばないとね!」
強大な妖怪や神々の、人智を遥かに超えた能力には確かに憧れるが…… それはそれで気苦労があるのだろう。 だったら自分は、自由気ままな猫でいい。   「はぁぁぁ……。
やっぱり猫はこうでなくっちゃねえ~。
猫に生まれてきて良かったぁ~……」   猫が、いい。猫は猫らしく、ひなたで思いっきり走り回る。 それがいちばんの幸せなのだと、橙は信じているのだった。  
「そうだ、あとで藍様のところに行かなきゃ!」