毘沙門天の代理というのは、とかく目立つ。 命蓮寺の外に出ただけで信者たちに囲まれる。それがおつかいともなるとなおさらだ。   「ふぅ……なんとか頼まれていた品は
買い揃えられました。
ナズーリンに頼らずとも、私だって
おつかいぐらいはひとりでこなせるのです」
お忍びの姿で人間の里に出かけた寅丸星。 なんとか自分の存在を気付かれずに済んだが、長居はできない。 よって、早々に人間の里を後にし、人気の少ない道を選んで命蓮寺へと帰ろうとしていたのだが……。   「なんと綺麗な桜なのでしょう。 こんなに素敵な出会いがあっては、
花見をしなければ罰が当たりますね」
星は桜の木の下に座り込み、腹ごしらえのために買った桜餅を食べ始める。 幻想郷に咲く長い年月を生きた桜。それを眺めていると、過去のことがぼんやりと思い返された。 ただの妖怪であった星は、聖白蓮からの推薦により、毘沙門天の代理人となった。 その後、聖が封印され、長い苦労と悔恨の末、やっとの思いで彼女の封印を解くことに成功した。 皆の力によって手にした、ひと時の安寧。 毘沙門天の代理人である以前に、ただの妖怪である寅丸星として、 聖とともに歩めるこの旅路を、彼女は嬉しく思っている。   「今度、聖にもこの桜を見せてあげましょうか。
きっと、喜んでくれるはずです」  
長い時を刻んだ桜。 その花びらの美しさを眺めながら、星は口に広がる甘い味をひとり静かに楽しんだ。