「サグメさんのコミュニケーション能力 改善問題については、 今はひとまず置いておくとして、です。 今日もちゃんと持ってきてくれました? 幻想郷のお土産」  
「ええ。私が幻想郷に行くたびに、あなたが
うるさく言ってくるから、さすがに忘れないわよ」
「あはは。この前の異変のときから、 幻想郷に興味を持ってしまいましてね……。 はっきり言って、夢の世界に ずっといるだけだと暇なんです。 サグメさんが持ってきてくれる土産話と 幻想郷の物品だけが、今の私の楽しみなんですよ」
夢の世界で彼女が受け持つ仕事は決して少なくはないが、 暇だと軽く言ってのけるあたり、彼女の効率の良さ、優秀さがうかがえる。   「もう少し、仕事を増やしてもらえるように、
私が掛け合ってあげてもいいのよ?」   「あはは。面白い冗談ですね。知ってます? そういうの、外の世界では パワーハラスメントというらしいです」
「この世界でならあなたが
私の上司になることも可能でしょうに」   「そういうことをさせないために、 私がここにいるというのに。 自分が夢の世界で好き勝手やってしまったら、 職権乱用になってしまうじゃないですか」
夢の世界では誰もが何者にでもなれる。 しかし、好き勝手させると秩序が乱れてしまうので、 ドレミーが責任を持って夢の世界を監視しているのだ。   「まあ、あなたがそれでいいなら、
私から言うことは特にないわ」
「あなたとこうして仲良く談笑していることが すでに夢みたいなものですから、 私は現状に割と満足していますよ」  
「……私を照れさせようとしたって、
何も言わないからね」  
幸せな夢を見せようとしてくる獏ばくに、舌禍の白鷺しらさぎは何も語らない。 少なくとも、今このときは――ではあるが。