幻想郷の遥はるか上空――。
誰もいるはずのない空の彼方に人の影……いや、妖精の影があった。
「あたい参上ってね!
はるばる地獄からひさびさに来たぜ!」
ピエロのような衣装をまとった彼女は、空から地を見下ろし、悪戯な笑みを浮かべる。
あどけない瞳をしているが、彼女は並の妖怪と比べても、欲に忠実で、凶悪。
人を狂わせ、破滅させる地獄の妖精なのだ。
「せっかく来たんだし、地上の人間たちを
狂気乱舞させちゃおっかなー、なんて」
狂気に染まれば地獄も天国。
我を忘れてしまえば、難しいことを考える必要はない。
それが妖精本来の在り方なのだと、彼女は本気で信じていた。
「お酒を飲むのと同じよ。我を忘れて
狂気に染まるのだって、悪いものじゃないだろ」
事実、狂気に堕おちて己が欲のまま振る舞う人々もいる。
彼らにとって彼女は、自分たちの生き方を象徴する天使のような存在だ。
神の使いという意味では、ヘカーティアの従者として間違っていない。
「誰かあたいに貢ぎ物をしてくれる人間は
いないかなー? お礼はちゃんとするのにー」
そんな彼女の甘言かんげんに惑わされる者もいる。
人を狂わせ破滅させる妖精のお礼が、ま・と・も・であるわけがないのに。
「さあ、楽しく踊り狂いましょー。
あたいの歌でも、幻想郷を狂気で満たしてあげる」
地獄の妖精、クラウンピース。
幻想郷は、間もなく彼女の狂気に支配され、狂乱の幕が上がるのだ。