もてなしの提案を受け入れた後、サグメは永遠亭の庭に案内されていた。  
「いいでしょう、この庭。 月が綺麗に見えるから、気に入っているのよ」  
蛍が飛ぶ夜の庭。月の光に照らされた夜道を、サグメと永琳は横に並んで歩いていく。
「最近、人間の里によく遊びに来ているそうね。 鈴仙がよく報告してくれているわ」  
「ええ、まあ……」  
「珍しいものがたくさんあるから、 サグメも楽しいでしょう?」  
サグメは、無言で頷きを返す。
「人間は欲しいと思ったらすぐに 作ろうとするから、いろいろなものがあるのよね。 この間なんか、鈴仙が 変な模様のコケシを買ってきちゃって。 『これ、姫様に似てると思いませんか?』 とか言って、姫に怒られていたわ」
遠い月を見上げながら、永琳は冗談を交えつつ、一番弟子と姫について語り始めた。  
「月にいたころから姫はおてんばだったけど、 幻想郷に来てからは、より活発になってね。 妹紅っていうお友達とは 毎日のように殺し合っているし、 最近は紅魔館のお茶会にも 参加するようになったのよ」
サグメに近況について語る永琳の顔には、普段の大人びたものとは違う、 まるで楽しいことを無邪気に話す少女のような表情が浮かんでいた。 敬愛すべき『八意様』が今、幸福であること。 月にいたころとは違い、人生というものをひとりの人間として謳歌おうかしていること。 そのすべてを感じ取ったサグメは微笑みながら、静かに彼女の話に耳を傾ける。 手を伸ばしても届かない、遠い遠い満月が、優しく二人を照らしていた。