雲ひとつない幻想郷の青空を航行するのは、聖輦船せいれんせんと呼ばれる巨大船。 船長である村紗水蜜は、心地よい風に頬をなでられながら、高らかに声を上げた。   「今日も良い天気、航行日和。ヨーソロー!」   普段は命蓮寺のメンバーを乗せて航行しているが、今、船の中に彼女以外の姿はない。 彼女はひとり、愛用の柄杓ひしゃくのメンテナンスに勤しんでいた。   「多少の傷はあるけど、この程度なら問題なし。
まずはピカピカに磨いてあげるね」
水の入った桶に手ぬぐい、仕上げ用のレモンオイル、そしてタオル。暑いのか、帽子は脱いでいた。 まるで赤子を扱うかのように、水蜜は柄杓を大事に、それはもう大事にメンテナンスしていく。   「いつも、私の無茶に付き合ってくれて、
本当にありがとう。
後にも先にも、私の相棒は君だけだよ」   じっくりと、念入りに。何度も何度も、丁寧に磨き上げていく。
「――よし、できた!
うんうん。我ながら完璧な仕事ぶりだよ」  
水蜜は満足げな顔を浮かべながら、磨き上げられた柄杓を空に掲げる。 掲げた柄杓は太陽の光に照らされ、まばゆいばかりの輝きを放っていた。   「船長として、メンテナンスを
欠かしちゃいけないからね」  
こういった細かな努力の積み重ねが、安全な航行へと繋がるのだ――と水蜜は得意げに鼻をかいた。