「飯綱丸様。計画通り、
妖怪を中心に噂は広めておきました」   「よくやった、典。 これで妖怪たちの間に混乱が走り、 我々の計画を邪魔する者はいなくなるだろう」  
からすの濡れ羽のごとく漆黒の夜。岩山の上から、菅牧典と飯綱丸龍は下界を見下ろしていた。
「くくくっ。慌ててる慌ててる。 嘘か真かもわからない噂に
他者が踊らされているのを見るのは、
どんなときでも楽しいものだわ。
こういうときは、私が管狐くだぎつねであってよかったと、
心の底から思いますよ」
そう言って、は舌なめずりをする。まるで、掌の上の蟻ありを見下すかのように。 に命令されるがままに、噂は広めた。 あとは動き出すのを待つばかり――だったのだが、すでにちらほら動きは確認できている。 彼女は情報を流すことに長けた存在だ。 典が一言ささやくだけで、人は、妖怪は、神々は――あっけなく坂道を転がってしまう。 他者の破滅が何よりものご馳走である彼女の前では、幻想郷のすべてが獲物。 自分のせいで誰かが終わりを迎えようとも、典にとっては些事さじに過ぎない。
「力無き者と侮るから足をすくわれるのよ。
最後まで立っていた者こそが勝者です。
……そう、まさに飯綱丸様、
あなたこそが真の勝者。
鴉天狗の大将に収まらない。いずれは幻想郷の、
いや、すべての世界の
頂点に君臨することでしょう」
別にそこまで成り上がるつもりはないんだが―― と、勝手に盛り上がる典に、龍は困惑の表情を浮かべる。   「飯綱丸様とともに、
高みの見物をさせてもらいますよ。
さっさと全員――破滅してくださいね♪」