鶏たちの様子がおかしいことに久侘歌が気づいたのは、彼らがざわめき始めてからだった。   「ど、どうしたんですか!?」   疑問の声を上げる久侘歌を無視し、忙せわしなく走り回り続ける鶏たち。 どう考えても、いつもと様子が違う。何かを恐れるかのように、どこかそわそわしている。   「これはまさか……
鶏たちが、異変の気配を察知している……?」  
動物は周囲の変化に敏感な存在だ。起きようとしている異変の気配に気づいてもおかしくはない。
「と、とりあえず、みんなを落ち着かせなきゃ。
落ち着いて、落ち着いてくださーい」  
なだめようと近付くと、音や人の気配に驚いた鶏が「こけー!」と叫び始めた。 突然の声に驚いた久侘歌は、体を強張こわばらせる。動けなくなった久侘歌の横を鶏たちが駆けていく。   「ま、待って! どこに行くの!?」
我に返った彼女は、思い思いの方向に走り去る鶏たちを慌てて追いかけた。 鶏が野に放たれてしまえば、妖怪に食べられても不思議ではない。 人間たちに捕まれば、最悪の場合、お肉に加工されて売られてしまう可能性だってある。 保護するために追いかける久侘歌。そうとも知らず、逃げ惑う鶏たち。   「お願い、止まって、止まってー! コケー!」   『コケー!』 ばたばたと走り回る中で発せられた鳴き声は、妖怪の山に高らかに木霊こだました。