狐と狸の手打ちを目的とした宴の後、
マミゾウはひとり店を出て、葉を変化させた羽織に袖を通した。
行き先は、妖怪の山。彼女はこれから、
典の主人である飯綱丸龍に『オトシマエ』をつけさせるつもりだ。
「今回は若い衆も巻き込まれたからのう。
頭を下げるだけで済ませはせんぞ」
天狗たちは今回の狐と狸の争いを元に多数の記事を書き連ねて、莫大な利益を上げている。
あれだけの騒ぎを起こしておいて、
菅牧典を使役している飯綱丸が儲けて終わり……というのはさすがに見過ごせない。
幻想郷にはルールらしいルールは存在しないが、それは無法とは違う。
越えられては困る一線というものがある。何より、やられっぱなしは性に合わない。
散々な目に遭わせてやって、幻想郷の狸たちの後ろには『佐渡の二ッ岩』が
ついていることを教えてやらねば。――もちろん、化け狸ならではのやり方で。
「弱肉強食で終わるのは人と獣の話……
化け狸の闘いは、騙かたり化かして終わるもんじゃ」
牙も弾も必要ない、笑うにせよ笑われるにせよ、勝手気ままに化かして終わる。
それが佐渡の狸の元締めである二ッ岩の報復であり、任侠道。古くから伝わる教えのひとつだ。
人間の間では廃すたれてしまった文化だろうが、誇り高い狸たちは未だにその心を持ち続けている。
「それじゃあ……派手にいくとしようか。
楽しい祭りの始まりじゃな」
どんな世界にも仁義はある。浮ついた鴉どもに、それを教えてやらねばなるまい。