長寿の影響か、妖怪の中でも行動力と社交性に長け、自らの翼で幻想郷中を飛び回る鴉からす天狗。 彼らの間では新聞大会が流行っているらしく、幻想郷では多くの新聞が発行されている。 鴉からす天狗の新聞としてよく知られているのは、捏造新聞として名高い射命丸文の『文々。新聞』だろう。 彼女は事件の噂を聞けば風のごとき速さで駆けつけ、相手の気持ちを考えない取材を行う。 褒められたものではないが、鴉からす天狗の新聞とは、そういう地道な努力の末に作られるのだ。 しかし、姫海棠はたての『花果子念報』は、どの鴉からす天狗とも制作過程が大きく異なる。   「まさか、いつもの念写でこんなにすごい
衝撃写真を撮ることができるだなんて!」
外の世界の通信機器に似たカメラを見つめながら、はたては唇を震わせる。 『念写をする程度の能力』を持つ彼女は、取材のために幻想郷を駆け回る必要がない。 現場に向かわずとも、カメラにキーワードを入れるだけで、求める写真が見つかるのだ。 だが、彼女が手に入れられる写真は、どこかで見たものしかなく、新鮮さに欠けている。 それゆえに新聞としての人気は鴉からす天狗たちの中でも低く、彼女は常に頭を悩ませていた。   「これは、今までにない記事になるわよ……
みんなの注目が、私の新聞に集まるかも!」  
だからこそ、今回ばかりは、すぐに作業に取り掛かる必要がある。 オリジナリティあふれる新聞を発行し、他の鴉からす天狗をぎゃふんと言わせるために。
「文の捏造新聞より先に、私の
『花果子念報』で正しい情報を届けなくっちゃ!
最新情報を幻想郷最速で報道するのは、
この姫海棠はたてよ!」  
他の天狗たちより先に新聞を発行するべく、 はたてはさっそく自室にこもって、新聞制作に勤しむのだった。