人間より長き歴史を生き、独自の社会を築き上げてきた妖怪たち。
人ならざる者たちの住む地は、いつしか『妖怪の山』と呼ばれるようになった。
彼の者たちは仲間意識が強く、そして排他的。一切の侵入者すら許さない――それほどまでに徹底的。
そんな彼らの領域に、外部の者が立ち入らないかを監視するのは、白狼天狗の役割だった。
「今日も侵入者がいる気配はなし。
連日異常がないというのも、
平和すぎて退屈ですね」
白狼天狗のひとり、犬走椛は千里眼という持ち前の能力で、
妖怪の山全域を監視する任を負っている。
生真面目な彼女はサボらず毎日監視を続けているが、最近は仕事に集中できないことも少なくない。
だが、彼女のことを誰が責められようか。
こうも平和が続けば欠伸あくびのひとつぐらいこぼれるというもの。
むしろ、誰に言われるでもなく、真面目に巡回を続けていることを褒めてやるべきである。
「どうせ何も起きませんし、
ちょっと休憩しようかな」
木の枝の上に飛び乗り、武器を幹に立てかけて、足をぶらぶら揺らす椛。
妖怪の山を包み込むように咲いた桜を眺めていると、小動物たちが駆け寄ってきた。
「あなたたちも一休みしに来たのですか?
……ふふっ。では、一緒に休憩しましょうか」
小さな小さなお客様。可愛い可愛い彼らは、花見のお供にするには打ってつけの存在だ。
「今日も平和で問題なし。こんなことなら、
お酒のひとつでも持ってくればよかったなぁ」
白狼天狗は今日も妖怪の山を監視する。退屈で平和な日常を守るために――。