紅葉を司る神である静葉は、基本的には秋以外の季節に外出することはない――はずだった。
「今日はなんだか肌寒いから……秋だと勘違いして
しまったじゃない。早起きして損したわ」
寝ぼけ眼をこすりながら、妖怪の山のふもとにやってきた彼女の目に映るのは、舞い散る桜の花びら。
秋とはまさに正反対。出会いと別れの春、その終わりを告げる光景だ。
「こうして見てみると、春の終わりも
秋と似ているところはあるかもしれないわね」
どこか憂いを帯びながらも、うっとりとした表情を浮かべ、終わりゆく春を見つめる秋の少女。
「ああ……どの季節にも別れは存在するのね。
目覚めの春が終わって、暑い夏が来て……」
そして、夏が終われば、静葉が待ち望む秋がやってくる。
季節が巡る限り、必ず終わりはやってくる。秋も含めた四つの季節、そのすべてに。
「自然が散るその瞬間、儚くも美しいのは
秋だけではない、か……悪くないわね」
誰に聞かれることもなく、そっとつぶやいた言葉。もし彼女を知る者が聞いていたら驚いただろう。
「夏の終わりも……冬の終わりも……
こうして見つめてみるのもいいかもしれないわ」
早起きに嘆いていた彼女は、秋以外の季節が少しだけ好きになることができたらしい。
「何かが終わる瞬間は、何よりも美しい。
その儚さを、これからも見届けていきましょう」