「さあ、今日も一日、
神奈子様と諏訪子様のためにがんばりますよ!」
妖怪の山、乾坤創造する神を祀まつるは守矢神社。
その本殿にて、風祝かぜほうりの少女――東風谷早苗は右のこぶしを天に向かって
元気いっぱい掲げていた。
「今日は本殿の掃除をして、次に境内。
その後は人里に行って布教活動。
昼を回ったら、博麗神社へ分社の様子を
見に行って、夜になったらお二人の食事を準備!
ふふふん。
なんて完璧なスケジューリングなのでしょう。
計画性の高さが、我ながら恐ろしいです」
外の世界にいたときも、彼女は守矢神社のために身を粉にして働いていた。
二柱の神についていく形で幻想郷にやってきた今も、彼女の真面目さに変化はない。
――いいや、外の世界よりも信仰が集めやすい分、むしろ激化している。
「地道な布教活動のかいあって、
信者も徐々に増えてきました。
もっとがんばって信仰を集めれば、神奈子様と
諏訪子様に褒めてもらえるかも……きゃ~!」
桶の上で雑巾を絞りながら、早苗は尊敬する神々に褒め千切られる自分の姿を想像する。
そんなときだった。彼女の瞳に“それ”が映ったのは。
「おや? あそこにあるのは……
神奈子さまの注連縄しめなわでは?」
本殿に転がっているはずのない、憧れの神様が普段身に着けている大事な一品。
元の場所に戻しておかなくては、と早苗は注連縄しめなわを手に取るが、ふと思った。思ってしまった。
「……後で返せば、
ちょっとくらい借りてもいいよね?」
普段は真面目な彼女も、本質はまだまだひとりの少女。
好奇心に打ち勝てるほどの精神力は、未だ持ち合わせてはいないのだ。