本殿の掃除中に見つけてしまった、八坂神奈子の注連縄しめなわ。勝手に使うことに抵抗はあるが、あの神々しさや格好良さにはやはり憧れがある。ご利益がもらえるかもしれないし、少しだけなら、借りても構わないだろう。そう、早苗は自分に言い訳すると、周囲に誰もいないことを確認しつつ、そーっとその注連縄しめなわを背負ってみる。　「おぉ……！　これが神奈子様の……なんだか、

すごく神々しい気持ちになってきました！」　

もちろん、背負っただけで神性が与えられるとか、そんなトンデモ効果は存在しない。だが、年頃の人間というものは外見を真似ただけで、あたかもその存在そのものになったかのような気分になるものなのだ。

「……こほん。私は東風谷早苗、

この守矢神社の風祝かぜほうりである！

みなの者、こうべを垂れい！

頭が高い、頭が高いであるぞー！」　

演技をしたら、だんだんと気分が乗ってきた。ヒーローごっこをする子どものように、早苗は無邪気なごっこ遊びを披露していく。 ――注連縄しめなわの持ち主が、影から優しく見守っていることにも気づかずに。

「いやぁ、つい出来心で注連縄しめなわを本殿に放置してみたけど、まさかこんなことになるとは。昔の早苗が戻ってきたみたいで、なんだか懐かしい気持ちになるわね」　

幼子を見守る親御のように、早苗に向かって慈愛に満ちた視線を送る神奈子。

「……それにしても、私にあそこまで憧れてくれていたなんて。分かってはいたけれど、改めて行動で示されるとなんだか照れくさいなぁ」　

その後、黙って覗いていたことがバレた神奈子が早苗から一週間ほど口を利いてもらえなくなるのだが、 ――それはまた、別のお話である。