幻想郷で有名な勝負方法といえば、まず最初に弾幕ごっこが挙げられるだろう。
弾幕の美しさを披露しつつ、どれだけ回避し続けられるかを競う幻想郷独特の決闘である。
しかし、幻想郷に住む者たち、そのすべてが弾幕ごっこに興じるわけではない。
魔法の森でひっそりと道具屋を営む彼――森近霖之助もまた、そのひとりである。
「はぁ……今日も彼女たちに
売り物を安値で持っていかれてしまった」
冥界の道具に妖怪の道具、魔法の道具に外の世界の道具まで。
人間にも妖怪にも拒まれず、販売だけでなく買取まで行っている香霖堂。
数多あまたの道具に囲まれながら、霖之助は本日何度目かも分からないため息をこぼした。
「気になる商品があれば、あれやこれやと
理由をつけてタダ同然の金額を付けられる。
紅魔館のメイドみたいな上客もいるにはいるが、
常連のほとんどは問題児ばかりだ」
実のところ、彼は弾幕が一切撃てないわけではない。
妖怪が跋扈する幻想郷で生きるのだから、それ相応の防衛手段くらいは持っている。
その上で彼には「弾幕ごっこに介入しない」というポリシーがある。
「大人の僕が彼女たちと対等に
弾幕を放ってしまったら……
ごっこ遊びじゃなくなるからね」
大層な考えではあるが、荒らされに荒らされきった店内の様子を見ると、
それがどこまで本心なのかは少々疑わしい。果たして彼自身にどれ程の力があるのか……。
少なくとも、彼女たちと同じ程度の弾幕を扱うことができれば……、
商品を持っていかれる現状を変えることぐらいはできるだろう。
さっきまでいた昔馴染みの魔法使いが散らかした店内を片付けるべく、
霖之助はひとまず立ち上がった。
「む? あれは――」
窓の向こうで何かが動いた気がした。思わず向けた目線の先に浮かぶのは、シャボン玉のような物体。
そちらへ吸い込まれるように霖之助の手が伸びる。
それが、今後の彼の人生を大きく変えるきっかけになるとも知らずに――