店の壁に空いた巨大な穴。
自らの手で作り出した破壊の跡を前に、霖之助は悪辣あくらつな笑みを浮かべる。
「常識に支配される過去は捨ててきた。
僕はこれから、
新たなるステージに足を踏み入れる」
香霖堂の売り物のひとつである大きなソファに座りながら、霖之助は得意げに口元を歪める。
「どうして幻想郷では
彼女たちが有力視されているのか。
どうして彼女たち以外の存在は、
平凡な脇役として過ごさなければならないのか。
その理由は至って簡単。
――弾幕を使えないからだ」
弾幕とは強者の象徴。弾幕ごっこを制するものこそが、幻想郷を制すると言っても過言ではない。
霖之助は弾幕を使えない無力な存在だった――そう、ほんの数刻前までは。
「きっかけというのは、
なんの前触れもなく訪れる。
とある少女が魔法使いに
憧れることになったきっかけも、
とある少女が外の世界から幻想郷に
来ることになったきっかけも
……不意を打つように現れる」
運命の螺旋らせんの行方は誰にも分からない。かの吸血鬼ですらも、完璧に把握することは不可能だろう。
だからこそ、人はそれを奇跡と呼ぶ。
そして奇跡は、人を立ち上がらせるには十分すぎるほどに光り輝いている。
「弾幕という力を使えさえすれば、
僕は彼女たちと対等な立場に立つことができる。
臆することなく、
正面から対話することだって可能となるんだ」
主役の方々にはそろそろ舞台を降りてもらおう。ここからは、脇役が脚光を浴びる時間だ。
「誰も予想できない大仕掛けを見せてやろう。
この力さえあれば、それが可能だ。
僕が幻想郷の猛者たちに恐れられる大舞台
――天を見上げる時間はもう終わりだ」
新たな思惑を胸に秘め、彼はひとり静かに笑うのであった。