旧都で行われることとなった、旧地獄陸上競技大会。
その場所を提供した側である鬼・星熊勇儀は、主催である古明地さとりの挨拶の前に、
エキシビションとして円盤投げをすることとなっていた。
「全力の競い合いを酒の肴にするために
場所を貸し与えたのに、
競技に手を抜かれたら
酒が美味しく飲めないじゃないか」
「だから、先に私が
本気とは何かを見せつけてやるのさ」
大会自体は小規模ながら、強力な妖怪、地獄の動物たちなど、多くの参加者が集まっている。
彼らに鬼のなんたるかを見せつけるべく……そして、これがただの身体能力だけではなく、
能力も含めた、自分の全身全霊を賭とす競い合いであることを伝えるべく、
勇儀はその力を遺憾いかんなく発揮する。
「さあ、がん首揃えて見ていなよ。
私の本気の、円盤投げをね!」
円盤を構え、その場で身体を回転させる勇儀。
その回転の勢いだけで競技場にすさまじい旋風が生まれ――そして、彼女を中心に大地が砕けた。
「いっけぇええええええええええええ
えええええええええええええっ!」
放たれた円盤は真っ直ぐに地底の天井部分に直撃し、轟音とともに巨大な穴を生成する。
落ちたがれきは建物を破壊し、旧都にちょっとした騒動を巻き起こす。
まるで巨人が拳でうがったかのような大穴を前に、参加者たちは当然、呆然とするしかない。
そんな中、勇儀はあくまで威風堂々とした態度で、高らかな声で言い放つ。
「鬼であるこの私を満足させられる、
そんな本気の競い合いを期待しているからね!
……手を抜いたら、承知しないよ!」
直後、会場は熱気に包まれた。
エキシビションが成功したかどうかなど、あえて語るまでもない。