旧地獄陸上競技大会、第四種目――短距離走。 紅魔館の仲間たちからの期待を背に、紅美鈴は一等賞を目指す――はずだった。   「うわぁ……すごい爆発。これは勝てませんね」   スタートの瞬間に轟音が鳴り響いたかと思ったら、 瞬きする間もなく三人の妖怪によってゴールテープを切られてしまった。 開幕と同時に敗北が決まってしまった紅美鈴。しかし、彼女は決して手を抜くことなどしない。   「全力でやれ、って鬼からも言われていますし、
何よりお嬢様たちが見ていますから」
激烈なゴール劇のせいで、美鈴に注目する観客はほとんどいない。 しかし、彼女はゴールを目指し、持ち前の運動神経を駆使して走った。 筋肉を軋きしませ、大地を蹴り、虹色の気をまといながら、 息を切らすほどの全力で、彼女は走り切った。 観客たちの興味は一等賞にのみ向けられている……否いな、決してそうではない。
頬を伝う汗を拭う美鈴に拍手を送ってくれる者たちも、少なからず存在した。 それは、彼女と一緒に地底旅行をしていた、紅魔館の面々だ。 わずか数人から送られた拍手。 まばらで小さなものではあったが、美鈴にとっては十分すぎる報酬だった。 膨れっ面をする主が、優勝賞品の温泉入浴券を美鈴が逃したことに拗ね、 同僚のメイドがそれを眺めながら、競技を終えた美鈴を軽く労ねぎらう。 負けた悔しさはあるものの、こうして自分を見てくれている人たちがいる。 紅魔館という居場所の温かさを感じ取り、美鈴は思わず明るい表情を見せるのだった。