どこの誰であろうと関係ない。
ささやかなものだとしても幸福を持つ者、優越感に浸るすべての者が妬ねたましい。
『嫉妬心を操る程度の能力』を持つ橋姫・水橋パルスィにとっては、
生きているだけですべてが妬ねたましく思えてしまう。
そう、例えば、山も谷もない、どこにでもあるような平凡な一日を送った、ただの人間ですら。
「はぁ……また橋を通ろうとしている人がひとり。
ああ、妬ねたましい、妬ねたましい。
きっと、橋を守る私を腹の底で笑っているんだわ。
自分が恵まれているからって。ああ、妬ねたましい」
地底にある橋の欄干に寄りかかりながら、パルスィは不愉快そうに舌を打つ。
「何を見ているの?そんなに、私のことが珍しい?
それとも、私を見下しているの?
はあ、この橋を通ろうとするやつってみんなそう。
橋姫なんて暇そうだね、とか、
いつも不機嫌そうだね、とか……」
「そうやって、みんな私を見下すんだわ。
幸せだからって、優れているからって偉そうに。
なによ、そんなに恵まれていることが偉いわけ?
ちっ、妬ねたましい妬ねたましい……本当に、妬ねたましいわ」
相手の言い訳など聞きたくないとでも言わんばかりに、彼女はぶつぶつと怨嗟えんさをこぼす。
今日も彼女は橋の上で、目につくすべてのものに嫉妬心を抱くのだ。