「あなたも寒さに弱いのね?
ふふっ、私とお揃いだわ!」   「私も同じ虫だもの。 寒さには弱いし、殺虫剤にも当然弱いわ」  
同じ虫同士、通じ合うものがあるのか、二人が打ち解けるのにそう時間はかからなかった。 虫の弱さや、夜に飛ぶ楽しさを語り合うだけで、自然と距離が近づいていく。
二人はしばらく時間を忘れて、夜間飛行を楽しんでいたが、 その途中で、リグルはふと、ラルバが月を見て止まっていることに気づいた。 月を見上げるラルバの顔は、先ほどまでとは打って変わって、真面目色。 何かを警戒するように――もしくは、何かを待っているかのように。 ラルバは一言も発さずに、じーっと月を見上げていた。  
「どうしたの? 月なんか見て…… なにか、気になることでもあった?」
「ううん、なーんにも! 気にしないで!
いいから、早くいきましょう?」  
本当に何も考えていなかったのか、それともはぐらかしているだけなのか。 煮え切らないラルバの態度に、リグルはなんとも言えない表情を浮かべるが、おとなしく従う。 ラルバの考えはリグルには分からない。 しかし、無邪気に空を飛ぶ今の時間があればそれで十分だと、そう感じられたのだ。
「リグルは月が似合うわね!
蛍の光は、月明かりの下でもよく映えるわ」   「ありがとう。でも、月の光に照らされた、 ラルバの羽根も、すごく綺麗だよ」  
明るい幻想的な月明かりの下、世の無常すらも忘れるように、蝶ちょうと蛍は空を舞った。