木々は緑に萌え、桜の花の姿はもう見えない。 幻想郷はすっかり夏一色。春の陽気はどこへやら。 人も妖怪も神々も――すべてが暑さに包まれる、太陽の季節がやってきた。   「春が終わりましたよー。今年の春は、
もう終わりましたよー。……終わっちゃったなあ」  
春を告げる妖精、リリーホワイトは、 夏の到来を感じ取り、ひとり、物悲しそうにつぶやいた。 彼女は春の到来を知らせる存在。当然、春が終われば、彼女の役目もまた終わり。 出会いと別れの季節が過ぎ、彼女にも別れが訪れる。
「今年の春はとても楽しかったです。去年よりも、
ずっとずっと……心に残る春でしたー。
来年も春が来たら教えてください、と
約束してくれた人たちのことも、忘れませんー」  
思い出と約束を胸に抱き、リリーホワイトは静かに幻想郷を見渡す。 春が終わると、彼女はどこかで残りの季節を隠れて過ごす。 それは冬眠にも似た、彼女の性質。また来年の春が来るまで、ゆっくりと英気を養うのである。
「何度でも、また逢いに来ますよー。
だって、春は必ず、やってくるんですからー」  
誰かに向けたわけでもないその約束は、夏の陽気に溶けて消える。 だが、届かなくたって構わない。 だって、彼女は必ず、来年も春を知らせに現れるのだから――。