草木も眠る丑三うしみつ時。
月の光に、揺れる木々。小動物以外は誰もいないはずの、夜の竹林。
しかし、竹林の中の開けた場所に、二つの影があった。
丁礼田舞と爾子田里乃。
とある神様の部下である彼女たちは、周囲に誰もいないことを確認すると、互いに顔を見合わせる。
「誰もいなくて、静かな場所を見つけちゃった。
今日はここで踊りましょう?」
「うん、僕もここがいいと思うな。
月明かりが綺麗で、
何より、風で揺れる竹の音が心地いいもの」
「でも、お師匠様に黙って、
勝手に踊ったりしても大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。
たまには僕たちだって主役を張ったっていいんだ」
「そうよね。もし怒られるとしても、
二人一緒なら、何も怖くないものね」
「そういうこと。だから、ほら、安心して。
二人でこっそり踊っちゃおう」
普段はバックダンサーとして誰かの応援をしている彼女たちだが、
今宵は誰かのためでなく、自分たちのためだけに舞うつもりらしい。
「私たちのためだけに踊りましょう。
月明かりこそが、私たちを盛り上げる観客よ」
「僕たちのためだけに舞ってみせよう。
揺れる木々こそが、僕たちを彩る音楽さ」
邪魔者なんて誰もいない。影日向に咲く二輪の花を、今宵、咲かせる時が来た。