太陽が沈み、かがり火が灯される。
だが、里の喧騒が止むことはなく、そこで行われている祭りは変わらず活気づいていた。
「ほう、舞台の上で能を舞うのか。
しかも、参加者全員でときた。
盆踊りのように、
気軽に能を舞えるのはこれまた一興。
どれ、私も参加してみるとしようかな」
広場の中央に置かれた簡易的な舞台に、摩多羅隠岐奈はためらうことなく足を踏み入れる。
彼女は今回、お忍びで人里の祭りに参加していた。
部下である二童子以外に、彼女がここにいることを知る者はそういない。
完全なるプライベート。
だからこそ、こうして気軽に興味のある催事に首を突っ込むことができるのだ。
「さて、能を舞うなどひさしぶりだが……
たいした問題じゃあないだろう。
人間の芸事げいごとなど、居眠りしながらでも真似できる」
神であるからこその大口であるが、しかし、その言葉に偽りはなかった。
彼女が能を舞い始めた途端、周囲の人々がざわつき始める。
隠岐奈の舞は、舞台の中で一際目を惹くほどに美しいものだった。
老若男女問わずに息をのむほど美麗で可憐。
彼女の邪魔をすまいと、周囲で踊っていた人々は徐々に隠岐奈から距離を取り始めてすらいた。
「おやおや、お忍びのつもりだったが、
どうやら目立ってしまったようだ。
……まあ、いい。ならば、神の舞を見るがいい。
一生ものの思い出になることだろう」
その美しき舞は秘すこと叶わず。しかし、その価値が失われることはない――。