「人の心なんて読んでも落ち込むだけ。
良いことなんて、何ひとつないよ」  
人を恨んだことはあるだろうか。 環境を恨んだことはあるだろうか。 ないなら、それはとても幸せなことだ。 ――それならば、自分自身を恨んだことはあるだろうか? 古明地こいしは、人も環境も、そして自分自身すらも恨んだことがある。 人の心を読むという、忌み嫌われた能力を持って生まれてしまった彼女は、 他人からの悪意に耐えられず、差別される環境に我慢できず、 そして何より、そんな扱いを受ける自分自身が見ていられず、 ――力とともに、自らの心も一緒に封印してしまった。
「お姉ちゃんと違って、私は何も分からない。
他人の心の中を見ることはできない。
でも、いいんだ。これで良かったの。 何も分からないことは、
とても素晴らしいことなんだから!」
その言葉に嘘偽りはない――本当に? その笑顔に嘘偽りはない――本当に? 瞳を閉ざした彼女のすべては薄っぺら。心も感情も果てしなく薄い。まるで、人形のように。 中身のない虚ろなそれは、果たして生きていると言えるのだろうか? その答えを出せる者は、この幻想郷には存在しない。 真実は誰も知らないし、誰ひとりとしてそれを知ろうとは思わない。   「あはは。私は幸せ!
瞳を閉じて、本当に良かった!」  
虚飾の笑顔と無邪気な無意識少女は、今日も幻想郷をフラフラとさまよう。 自分が生きているという実感を、得ようとするかのように――。