ハニワに仕事を、居場所を奪われた。誰か助けて、誰でもいいから自分たちを救ってくれ――。 そんな人々の嘆きの声が、豊聡耳神子に聞こえていた。   「安心しなさい。君たちの不安は、
この私が拭い去ってあげようじゃあないか」  
ハニワによって仕事を奪われた者、いつかハニワにされると思い怯える者。 神子は神霊廟の入り口を人間の里に一時的に開き、 そうしたさまざまな不安を抱える者たちを受け入れ、相談に乗っていた。 相談に乗るといっても、決してひとりずつではない。 何人もの声を同時に聞き、的確な助言を授けていく。 その姿はまさに、十人の言葉を同時に聞き分けたという聖徳王の逸話の通りであった。
(ハニワが人間の里をおびやかしている
この緊急時こそ、人の心をつかむ絶好の機会。
こうしたときに慈悲の心を持ち、真摯に
接することで深く人心を掌握することができる。
いつか為政者として立つときのために、
地ならしはやはり重要だ)
彼女が人助けをする理由は、善意だけではない。彼女なりの目論見がある。   (いざとなれば、私が人々を先導して
ハニワを駆逐するつもりだが……。
まだ慌てる必要はない……
今は、一人でも多くの者に施しを与えよう)
状況を冷静に分析しながら、神子は泣いていた民のひとりに手を伸ばし、 聖母のように優しく微笑んだ。   「ほら、手を取ってごらん……
私が君を救ってあげよう」