これは、永遠に変わることのない不変の永久トワなる幻想郷で、 誰にも認識されない須臾しゅゆのトキに囚われた、悲しきお姫様の物語。   「……まさか、こういう結末を
迎えてしまうとはね」  
もし、すべての命がついえてしまったとしたら、その世界はどうなってしまうのだろうか? 新たな生命が生まれることはなく、次の時代が紡がれることもない。 そこにあるのは避けられない終焉しゅうえんだけ。まさにお先真っ暗な、足踏みするだけの世界。 そんな無間地獄の牢獄ろうごくに囚とらわれた生き残りが、今ここに、ひとり存在した。 蓬莱山輝夜。 不老不死の肉体を持つ蓬莱人である。
「いつか来るとは思っていたけれど、
ここまで悲惨なものだとは思っていなかったわ。
あーあ、こんなことなら
不老不死になんかなるんじゃなかった。
……なんて言ったら、
永琳に怒られちゃうかしら?」  
すべての歴史を見届けた彼女だが、その歴史を引き継ぐ命はもう、この幻想郷には存在しない。 彼女と永琳のふたりぼっち。彼女と言葉を交わせる者は、永琳以外、ただのひとりも――。
「あら、まさかあなたも生き残っていたなんてね。
さすがの私も驚いたわ」  
しかし、終わりを迎えた幻想郷に取り残されている人間が、もうひとりだけ存在していた。   「……いいえ、本当は薄々気づいていたわ。
だってあなたは、私と似た者同士なんですもの」  
自分と同じ境遇の被害者――その被害は彼女が与えたものであるが――を見つけた輝夜は、 その者ににこりと笑って語りかけた――その声が震えていたことにも気づかずに。