人形とは、ヒトの形をかたどった“モノ”である。
当然、ヒトではないので魂は宿っておらず、ひとりでに動くこともない。
だが、もしそこに、魂が宿っていたとしたら、それはいったいなんなのだろうか?
(……どうしたものかしら)
きっかけはなんだっただろうか。魔法の失敗か、あるいは成功か。
なんにせよ、アリス・マーガトロイドは現在、絶体絶命の危機に陥っていた。
(まさか、私自身が人形になってしまうなんてね)
今現在、彼女は物言わぬ“モノ”と化している。
動くことはおろか、自力で立つことすらままならない無力な人形。
そんな彼女の周りには、アリスがいつも使役している上海人形たちがいる。
もちろん、魂なんて宿っていないので、人形たちが勝手に動くことはない――はずなのだが。
上海人形たちは脱力しているアリスの体の至るところに糸をくくり、
そして人形劇をするかのように彼女の体を糸で操り始めたのだ。
(ああ、悪夢だわ。これはきっと、悪い夢。
夢ならば、早く覚めてちょうだい……)
ヒトとは、この世界にことごとく存在する“命”である。
だが、もしそこに、魂が存在しなければ、それはいったいなんなのだろうか?
これは、魂を失った人形師と魂の宿った人形による、美しくも儚はかない、不思議な物語。