日がゆっくりと沈み始めた夕暮れ時。 人里近く――しかし、人気はあまりない川のほとりで、ひとつの人影がゆらゆら揺れていた。   「よっ、ほっ、っとっと……うーん、
やっぱり重くて投げにくいなあ」  
その人影はお手玉のように、一心不乱に三つの玉のようなものを放り続けている。 ――いいや、玉などではない。それは頭だ。それも、人間の。 誰の頭かなど、あえて質問するまでもないだろう。 それを放り続けている少女には、頭と呼ぶべき部位が存在しないのだから。
「うーん、暇だ。みんな早く来ないかな
……って、あっ、やばっ……!」  
独り言に意識が向きすぎたのか、少女は頭のひとつをあらぬ方向へと飛ばしてしまった。 飛んだ頭は川へ向かって弧を描く。 落とすまいと慌てて少女は手を伸ばすが、かえって残りの頭のすべてが手から滑り落ちてしまう。   「あはは……やっちゃった。誰にも見られて
いないとはいえ、ちょっと恥ずかしいわね」
簡単なお手玉を失敗したことが恥ずかしいのか、川へ落ちそうになっている頭には照れ笑いが浮かぶ。 しかし、今まさに着水しようとしている水面には、 照れ笑いとは似ても似つかない、不気味な笑みを浮かべる少女の顔が映し出されていた。 水鏡が映したのは、妖怪としての本性か。 はたまた、大禍時おおまがときに潜む何かが、水面の奥にいたのだろうか。 妖しき異変に気づいているのかいないのか、 少女はただ淡々と、黄昏たそがれめがけて頭を放り投げるのだった。