道具はいつか壊れ、捨てられてしまうもの。 それはごくごく自然なことであり、同時に当たり前のことでもある。 だが、はたして、その道具はどれほど大事にされてきたのだろうか? 少しでも不備があったから、捨てられてしまったのだろうか? 可能な限り直して、長い長い時間、大切に使われたのだろうか? その道具に秘められた思い入れ、記憶はどれほどのものなのだろうか?   「雛人形以外は、
私の管轄ではないのだけれど……」
雛人形に厄を乗せ、川に流す行事――流し雛。 その風習を利用して、厄神様の鍵山雛は川下かわしもで厄のたまった雛人形を回収していた。 今回はどれほどの厄がたまっているのだろうか、どんな雛人形が流れ着いているだろうか。 そんなことを考えながらたどり着いた川下かわしもには、雛人形以外のものも多く流れ着いていた。   役割を終えた、たくさんの道具。使い古された無機物の山。 数えきれないほどの雛人形に囲まれる中、捨てられた物たちは身を寄せ合っていた。
「みんな、おつかれさま。 私しか見届けられないけれど、
ここでゆっくりおやすみなさい」  
死した道具の山に腰掛けながら、雛は雛人形を抱きしめる。 人の来ないこの静かな場所で、はたして彼らは安らかに眠れるのだろうか――などと考えながら。