九十九八橋は人間の里にある雑貨屋を訪れていた。 しかし、特に目的があるわけではない。 道を歩いている途中、大切に扱われている雑貨や玩具の声が店内から聞こえてきたから、 つい興味を引かれて足を踏み入れてしまったに過ぎない。   「うーん、せっかくなら、
姉さんに似合いそうなものを買いたいなぁ」  
ちょっとのぞいてみるだけのつもりだったが、想像以上の品ぞろえで、ついつい物色してしまう。 店内を歩き回る八橋の耳に聞こえる、いろんな玩具や雑貨の声、言葉。 数多あまたの道具たちと会話をしながら店内を見て回った八橋は、ついにひとつの小物を手に取った。
「わほーい! いいのあったかも」   それは、赤いひもで作られた、簡素な房タッセル。 決して高級品ではないものの、なんとなくそれが気に入ったので、 姉へのプレゼントに選ぶことにした。   「これからよろしくね。 きっと、姉さんもあなたのことを
気に入ってくれると思う」
戦利品にそんな言葉をかけながら、八橋は購入した房タッセルを片手にうきうき気分で店を出た。   「え? 姉さんがどんな人か気になるの?
えーっとね……」  
道具からの質問に、八橋はうーんうーんと考え、そして明るい笑顔を浮かべると、   「血とかのつながりはないけどね……
私にとって大切で、最高の姉さんなの!」  
赤い紐で結われた房タッセルを、嬉しそうに空へとかざすのだった。