「あ~あ……私に見合う面白いもの、
なにかひとつぐらいないのかしらー」  
かつて、人間の里で不特定多数の人々から富を巻き上げるという異変を引き起こした疫病神。 依神女苑という名を持つ彼女は、さまざまな人々との出会いや経験からか、 その本質に変化はないものの、 以前よりは少しだけ精神面で成長した姿が垣間見えるようになっていた。
「人におごらせたら聖にまたお説教されちゃう
だろうし、自分で買いたいものだけど……ん?」  
特に予定らしい予定もなかったので人間の里でのんびり買い物をしていた女苑。 その途中、彼女はとある物品に目を留めることとなった。   「へぇ、いいじゃない、この風鈴。
ちょっと安っぽいけど、いい音色をしているわ」
彼女が見つけたのは、なんの変哲もない、ただの風鈴。 高級品でも、決して特別というわけでもないその道具。 凡庸な一品から響く涼しげな音色は、どうやら彼女の心をつかんだご様子だ。   「それに、色もいいわね。自己主張しすぎない、
青と紫色。見ているだけで涼しくなれそう」  
青と紫。 そんな色を基調とした存在が、かなり近しいところにいたような、いなかったような。
「気に入ったわ。私があなたを買ってあげる。
せいぜい、私を涼ませることね」  
嬉しそうな笑みを浮かべながら女苑が風鈴を揺らす。 風鈴は返事をするかのように、ちりん、と鳴った。