「マミゾウのやつ……
佐渡くらい、自分で行けばいいのに」
幻想郷を自由に抜け出すことができるという理由で、
封獣ぬえは友人の二ツ岩マミゾウからおつかいを頼まれていた。
おつかいの内容は大きくふたつ。佐渡の妖怪たちへの伝言と、贈り物の運搬だ。
「ま、幻想郷にあいつを呼んだのは私だし、
断れもしないんだけどさ」
遠路はるばる佐渡まで向かわされているのはしゃくだが、
そもそも、ぬえがマミゾウを幻想郷に招きさえしなければこんなことにはならなかったのだ。
――と、まあ、それはそれとして。
「おつかいは別にいいんだけど、
監視役までついてきてるのがなぁ」
上空に浮かぶスキマに、ぬえは心底嫌そうな顔でベッと舌を出す。
鵺ぬえは正体不明の妖怪だというのに、監視なんてされたら妖怪としての尊厳に関わる。
なので、ぬえは能力を使って、自分の姿を黒く覆った。
ぬえ自身、幻想郷の外に出るのは嫌いではない。
夜さえも白く照らしてしまう、人工の明かり。
正体不明であった数多あまたの出来事を、物理と科学によって白日の下もとにさらしてやった、
などと考えている――浅はかな人間たちの文明。
「私が飛んでいることにすら気づけていないのに、
本当におめでたいやつらだよ」
文明が進んだからこそ、見えなくなるものもあるというのに。
「昔の人間……
いいや、幻想郷の人間たちのほうが、
私を直視しようとする勇気があったのかもね」
常識という名の明かりに照らされた者は、ありえないものを見ることを忘れてしまった。
本当に愚かなやつらだ、と評価しながら、ぬえは気ままに夜の街を飛ぶのだった。