雨が降っているけれど、こういう日だからこその散歩も、たまにはいいかもしれない。 そんな一時いっときの気まぐれを抱きながら、玄関を出たところで――雨が止んだ。   「あら、残念。雨の日の散歩とはいかなそうね」   用意した和傘を片手に空を見上げながら、西行寺幽々子はため息とともに肩を落とす。   「予定が崩れちゃったし、どうしようかしら
……あら?」
視線を動かした先で、紫陽花の花が水たまりの上で揺蕩たゆたっていた。 激しい雨で散った花びらか何かだろう。 雨の日にはよくある光景。しかし、なぜか幽々子は、その花びらから目が離せなかった。 ふと、先日、消滅した怨霊について考える。 あの怨霊は成仏し、そして霧散した。 輪廻転生の輪から外れた怨霊に、転生の機会は与えられない。 幽々子は亡霊ではあるものの、輪廻転生の輪から特例として外れている存在だ。 遠い未来、もし成仏するときが来たら、幽々子もあの怨霊のようになるかもしれない。 そうなったとき、自分は幸せに消えられるだろうか――それだけが、気がかりだ。
「……私は別に成仏してもいいけれど、
妖夢が泣いちゃいそうなのよねえ」  
涙で顔をぐしゃぐしゃにする従者の顔を思い浮かべ、つい、笑みがこぼれてしまう。   「あの子が、私の大きな未練になりそう。
ふふ、これはまだまだ、消えられそうにないわね」  
庭にそびえる西行妖を遠目に見上げながら、幽々子は柔らかく微笑むのだった。