鬼傑組の名を知らぬ者など、畜生界にはただの一匹も存在しないことだろう。
奇襲を得意とする動物霊たちで構成された組織であり、
そこの組長を務めるのが、吉弔八千慧と呼ばれる妖怪だ。
「鬼傑組の鉄の掟おきて。それはいたってシンプルです。
正面からの殴り合いなど愚か者の象徴。
搦からめ手こそが、最短かつ最良!」
龍の角に長い尻尾、背中には龍のうろこでできた亀のような甲羅。その二つに釣り合わぬ華奢な身体。
この、極道と呼ぶにはあまりに奇妙で可憐な少女こそが、鬼傑組の組長その人だ。
「やるなら他人の手を使う。
天敵である偶像の討伐も例外ではありません。
卑怯だ、なんて
言いがかりをつけないでくださいね。
要領がいい、と言ってもらいたいものです」
霊長園の人間霊が召喚した造形神イドラデウス、袿姫の作る偶像に、動物霊は手も足も出ない。
だからこそ、彼女は持ち前の頭脳で作戦を立てた。
敵対する組織である勁牙組や剛欲同盟と手を結び、動物霊を地上へと送り込む。
そして偶像を倒すことができる人間に憑依ひょういさせ、畜生界に連れてくるという作戦を。
「地獄は絶望的に広いですよ。
私が案内しましょう」
……結局、八千慧が彼女たちをいいように使っていたことは、バレてしまうのだが。
「私の掌てのひらの上で踊らされたからといって
怒らないでください。
やくざ者を信じた、あなた方の責任でしょう」
人をだますことに彼女は罪悪感を覚えない。
そんな冷酷さを持ち合わせているからこそ、組長を務められているのかもしれない。