これはまだ、小鈴がみんな妖怪だったとげんそうきょうのしんじつを知る前の話――   「この本はですね、お得意さんの蔵の奥で 見つけた妖魔本なんです! 何かしらの封印が施されているようで、 私じゃ開くことすらできないんですけど……」  
「見ただけで妖魔本だと分かるなんて、
小鈴ちゃんは物知りじゃのう」
「ふふん。これでも本屋の看板娘ですからね。 本のことならお任せあれ、です!」  
鈴奈庵、その店内の掃除をしながら妖魔本について語る小鈴の話を聞きながら、 マミゾウは小鈴に渡された妖魔本に目をとめた。 小鈴では開くことができない本らしいが、どういうからくりになっているのか。 本の表紙を手でさすり、マミゾウは静かに目を細めた。
「どうしました、お客さん? その本に興味がおありですか?」  
「ちぃっとばかし、のう。して、
こいつは蔵で見つけたと言っておったな?
どこかで買ったとか、拾ったとかではなく」
「はい! 蔵の掃除を頼まれまして、 そのときに見つけたものです。 あまりホコリを被っていなかったので、 妙だな……って思って。 どんな本なのか調べるために、 引っ張り出してきたんです」
「ふむ……ホコリを被っていなかった、と
……それは妙な話じゃな」  
蔵の中にあったのならば、ホコリまみれになっていなければおかしいというもの。 マミゾウは何かを企むように口角を上げると、妖魔本に手をかけた。