小鈴では開くことすらできなかった妖魔本。 しかし、マミゾウが触れた瞬間、その本はあまりにもあっけなく開いた。 マミゾウが本を開いた途端、中から文字が浮かび上がり、二人の周囲で渦巻き始める。  
「わっ、わっ。な、なんですかこれ!? 文字が飛んでる!?」  
小鈴が目を白黒させて驚くが、特に何かの現象が起こるわけでもなく、 せわしなく宙を飛び回っていた文字は、そのままあっさりと霧散した。
「あ、あれ……? なにも、起きない……?」  
「今のは妖怪じゃよ。
本を開いた人間の身動きを取れなくする――
場合によっては憑り殺す妖怪じゃな。
誰かしらの手で、
本の中に封印されていたのじゃろうな」
「えええっ!? 人間を、こ、殺すって…… もし開いていたら、私……ひぃっ」  
「まあ、封印のせいで憑り殺す力も
なくなってしまっておったようじゃがな」   「あ、そうなんですね。じゃあ開いていたとしても 問題なかったんだ。よかったあ」
「そうとは限らんぞ。開けないものには
それ相応の理由があるものじゃ。
これからは、開く前に
よく考えるようにするんじゃぞ」  
軽い口調で小鈴に注意を促すマミゾウに、小鈴は羨望のまなざしを送る。 妖怪について詳しい人間への憧れがあるのだろう。マミゾウは人間に変化しているだけなのだが。
(まあ、本当は、儂わしが妖怪じゃったから
憑り殺されなかっただけなんじゃがな)  
小鈴には秘密だが、そもそもあの封印は人間には開けないよう施された封印だった。 世の中知らないほうがいいことは多い、それが妖怪相手ならなおさらだ。 知っても損すること、言う必要のないことが世の中には多いことを、 多くの者を化かしてきたマミゾウは誰よりも知っていた。