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八雲藍は八雲紫の式神であり、九尾の狐に式神が憑依したものだ。
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彼女の持つ『八雲』という名は、式神である藍が八雲紫の所有物であることを示すもの。
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当然、彼女に『八雲』の名がなかった時代も存在する。
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それは、遥か遠い昔。
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九尾の狐を恐れる声。九尾に怯え、畏怖し、そして信仰する人間たち。
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自身を打ち滅ぼさんとする人間を返り討ちにする、妖怪としての凶悪な日々。
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妖怪としての本懐を満たしていた九尾の狐の前に、
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『八雲紫』がやって来たのは、さて、いつ頃だっただろうか……。
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「――ハッ。すいません、紫様。
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少し、ぼーっとしていました」
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掃除をしながら懐かしい思い出にふけっていた藍は、主である紫の声でハッと我に返った。
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「お菓子を取って、ですか?
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もう、それぐらい自分でやってくださいよ。
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……仕方がありませんね。
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ちょっと待っていてください」
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紫の要望を聞きながら、式神『八雲藍』ではなく、
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九尾の狐であった昔の自分は今の生活をどう思うだろうか、などと考え、小さく苦笑した。
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昔の自分が忠誠を尽くすに値すると考えた主が紫なのだから、
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いつの自分であっても……仮に九尾の狐のままであっても、紫とともにいれば満足したことだろう。
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「後悔なんて露ほども。私は今の自分と
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過去の選択に、心の底から満足しているさ」
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今でも紫とともにいられることに感謝をしながら、藍は雑務を続けるのであった。
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